ありけん日記


有田健太郎の日記、エッセイ、フォトギャラリーです
by KeN-ArItA

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祝!『ジョージの直球線』開通

今月の中頃、東京メトロの『副都心線』という地下鉄が開通した。
これにより西武池袋線と東部東上線はうんと便利になったのだ。
渋谷までは、最大20分くらいの短縮になるし。
ついに来たよ、西武線の時代。

疲れて夜遅い時なんかは、あぁー『快速おれんち行き』とかないかなー。
なんてどうしようもないことを考えがちだけど、もう大丈夫!

しかし『副都心線』と言う名前はどうかな~。

『ジョージの直球線』なんてどうかね。
『ストレート渋谷行き』とか『カーブ渋谷行き』とか『ナックル所沢行き(途中から早くなる)』とか、、

ないね。


最近バタバタと時間のない日が続いている。
見切り発車の『かたつむりランデヴー』も全然連載になってないし(頑張ります!)。
もーたいへん。

そんな帰りの副都心線、携帯での仕事も終えて、久しぶりに文庫本のしおりのページを開いてみた。
すると『よし子』という登場人物が当たり前のように出ていた。

う〜ん、だれ?
ちょいとページを戻すと、わりと大事な人物としてずっと存在していた。

う〜ん…
結局読み直し始めました。


ドアの所に立っている年配の男性が、ドラムのスネアケース(直径50センチくらいのタイコを入れるケース)を持って立っている。
だけど男性の格好はどう見てもアウトドア風で、どう見てもそのスネアケースにスネアは入ってはなさそうなんだ。

そのうち男性は、スネアケースのチャックを開けて水筒を取り出し、コポコポとお茶を飲み始めた。

新しい。
けっこういいバックかも。

バンドマンの息子を持つ親かもね。

「ふざけんなおやじ!
あれほど黙って持ち出すなって、言ってるだろ!」

帰ったら怒られたりして。


開通したばかりの『ジョージの直球線』は、他線より空いている。
座れた僕は、読み直した本とともに西へ西へ。

やがて地下鉄は西武池袋線へ直通し、地上にはい出し、僕の町へ向かう。

いいよ。

早いぞジョージ!



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【東京は上野、下谷神社】
その日は、久しぶりに下谷神社。
ロンも化けニワトリも相変わらず。
しかし、ボロい2階建てアパートやね。

下谷神社の『化けニワトリ』がどれだけ大きいか、わかるでしょ?(笑)
絶対カゴから出してはいけないのです。

しかしロン、おまえはいったい何犬?
ロバ犬?
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by KeN-ArItA | 2008-06-30 23:34 | Comments(0)

時々不思議カメラ

6月に入り、梅雨らしく冴えない天気が続いている。

梅雨の切れ間、初夏の日射しを避けるように座ったベンチ。
その後ろ、さらにちっちゃな世界に降りてみると。

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だだーん。ゼニゴケの世界。

じめじめした場所なのに、常夏の国みたいよね。
蟻になって、あのヤシの木みたいな雌株をよじ上りたい。



近くにある、百合のつぼみでは。

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だだーん。小カマキリ。

まだこんなに小さいのに、その姿はすでにり凛々しいカマキリ。

がんばれよ!

おまえもな!(by 小カマキリ)



最近は、小さなところによく目がいってしまう。
すっかり雨のあじさい日和、そのまま通り過ぎてしまいそうなコンクリート壁では。

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おおっ

脱皮したてのてんとう虫。

この壁には、まだたくさんのサナギがくっついている。
もうちょい待てば、しっかり色が出てくるでしょう。

さあ、背中の星はいくつかな?

がんばれ!てんとう虫。

お前もな! (by てんとう虫)


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渋谷の小坂で見上げれば。

おー、チェリー。

これ、きっと食べれんよね。

さらに小枝をよく見れば、小スズメが空飛ぶ練習中。

親スズメが餌を餌にしておびき出している。

枝から枝へ、まだまだバサバサと重たい小スズメ。

早く自分で餌を捕れるように、がんばれよ!

お前もな!(by 小スズメ)



先日、福岡の方に帰った。
雨の降り出す前にふらり出かけたのは、実家の裏山。


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下ってゆくあぜ道に、おー、栗ブロッサム。
甘ったるいジューシーな栗の花の香りに、カナブンや蜂やハエ等は、もーたいへん。
ブンブン大騒ぎ。

自分もまぜて!
だけどここは、昆虫専用お祭り大会。

あんたはダメよ!(by 昆虫達)

そのまま過ぎ去ろうとしたら、、

せいぜいがんばれよ!(by 昆虫達)

あー、がんばりますよ。がんばりますさ。



小川の橋を渡り、さらに池に向かって歩いてゆく。

この森はいつだってこんもりとしている。


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だだだーん。
野生動物よけの有刺鉄線。

錆びて蜘蛛の巣が張っても、まだまだ現役。
野菜を守るのだ!

つつーっと行こうとしたら。

また来いよ!(by 有刺鉄線)

ああ、また来るさ。来ますとも。


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池の土手を上ります。
ウェルカム綿毛大会。今度は綿毛の運動会。

おいーっす!

パシャパシャパシャパシャ…
泡の弾けるような喝采と声援で、風とダンス。

僕なんて気づかれやしない。



古池は、昔と変わらずそこに佇んでいて。
自分はそこで、やはり昔と変わらず佇んでいて。

また飛び込むかい?(by 古池)

いや、また今度で。


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種の旅立ち。

ここらはワラビ(シダ科の植物等)が多い。
子供の頃はよく採ってまわった。


おいおい種君、ひっかかんないでしっかり飛べよ!(by わらびー)

なにそんな所に突っ立てるのさ、邪魔だよ!(by 門出の種)

まーまー(by ありけん)

おまえ、がんばれよ!(by わらびー&門出の種)

あんた達もね!



時々不思議カメラは、今日もバックの中。
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by KeN-ArItA | 2008-06-16 21:08 | Comments(0)

ありけんシリーズ小説、連載開始

シリーズ小説『かたつむりランデヴー』の連載を開始します。
不定期、4連載くらいの予定です。

第2話は『梅雨入り宣言(後編)』です。
ぜひ覗いてみてくださいね!(この下の投稿欄です)

〜あらすじ〜
4月から7月の4ヶ月間だけ存在する気象庁の『梅雨課』。
その任務はたった一つ。それは『梅雨入り』と『梅雨明け』を見極めること。
そこで働く3人は、それぞれ思い思いに働いて、思い思いに生きているのです。

長く伸びた低気圧の帯は、焦らず、ゆっくりと動いています。
これは雨の季節の、他愛もない物語です。
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by KeN-ArItA | 2008-06-09 06:10

かたつむりランデヴー『梅雨入り宣言』(後編)

次の日、目覚めたタケシは、カーテンの隙間から漏れる光に敗北を予感した。

ツバメの鳴き声に、車の走る軽い音。
窓を開けるとやっぱり、快晴の空が街に朝日を投げかけていた。

はぁ

もしあのとき『梅雨入り宣言』を発令していたら、クレームの電話がなりっぱなしだったろう。

「梅雨入りっていうからボーリングにしたのに、この天気じゃやっぱりバーベキューにすればよかったじゃないか!
今からバーベキューセットもって河原へ来い!」とか。

「あのさぁ。梅雨って、雨に梅って書くんだぜ。
窓の外みてみろ。晴れてんじゃねーか!」とか。

天気予報課は梅雨に関するクレームがあると、すぐに梅雨課へ切り替えるので、考えただけでもぞっとした。


地下鉄の大手町駅を出て、雑踏。
見上げる空にため息とカフェラテを持ち、タケシは庁舎に向かった。

「おはようございます…」

梅雨課はいつもと変わらずそこにあり。
山さんは競馬新聞を、絵美はネット通販で夏服ファッションを見ていた。

山さんは、明朝に中部、四国地方の梅雨入り宣言発令許可も出したらしく。
この部屋で唯一立派と言える、電光式の日本地図のボードの中部、北陸地方から下は、全て赤く点灯していた。


昼休み、屋上へ出たタケシは山さんを見つけた。

大小さまざまなビルが立体的なパノラマを作り上げていて、白シャツでタバコを吸う山さんはひと際凛と映え、この場所がビル群と低気圧の中心にあるように思われた。

「おれ、昨日は生意気言ってすみません」

タケシは目を合わさず少し離れて並んだ。
はっきりと耳には聞こえないのだが、都心奥底のエンジンが回転しているゴォーという周波が風に乗っている。

「風が変わったな。
気圧が谷を越え始めたぞ」

見上げればそこに朝の晴天はなく、蛍光灯の明かりような曇が流れ始めていた。
雲は、膨れたり縮んだり、千切れたり引っ付いたりしながら、だけど確実に増幅しているように見えた。

「タケシ…お前、雨のにおいを嗅いだことがあるか?」

「雨のにおいっすか…
自分はよくわからないです」

「衛星写真に過去のデータ。コンピュータ予測にクレームを恐れた曖昧な発表。
俺たちは、そんなつまらない仕事をやっているのか?」

やまさんの吐き出すタバコの煙は、風に白という色を付け、ばあっと東に流れた。

「おれは昔から空が好きだった。
雨や晴れ、かすかな晴れ、かすかな曇り。
台風に、梅雨、積乱雲にいわし雲。
同じ空は一度だってない」

くるりと向きを変え、手すりに背をもたれた山さんはゆっくり続けた。

「小学高の頃な。遠足があったんだ。

日頃、出張で家にいないおやじが珍しく参加することになっていて、
おれはすごく楽しみで、浮かれていた。

だけど当日の朝、雨が降ってた。

おれは、朝早くから外に出て、ずっと空を見ていた。

この雨は止む。
根拠はなかったが、日頃から天気を読み当てるおれには、自信があったんだ。

おれは、おやじや先生に、『雨は止みます』と何度も何度も言った。

だけど、終日の雨を強く予報した天気予報を信じた大人達は、疑わず遠足を中止にしたんだ」

こんな顔もあるんだ。
タケシは、山さんのやさしい横顔の雰囲気に驚いていた。

「…そのあと、天気は、どうなったんですか?」

「1時間後、雨は上がり、午後からは少しずつ陽がさしてきた」

「山さん、昔から感が鋭かったんですね」

フフっと顔を緩めた山さんは続けた。

「おれは悔しかった。
遠足が中止になったことよりも、適当な予報を出してそっぽを向いている天気予報が許せなかったんだ。

そして…、その時決めた。

おれが日本の天気予報を変えてやる、ってね。

人間だって自然だ。
おれは大地の一部になって大気を読む。

タケシ、データは大切だ。
だがまず、五感で感じてみろ」

潤んだタケシの目に、形を変えながら流れてゆく生き物のような雲が映っていた。

「雨のにおいがする。
お前はもうしばらくここにいろ」

そう言い残した山さんは、携帯用の灰皿に吸いかけのタバコを押し込み、屋上の扉へと去って行った。

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絵美のデスクに置いてあるラジカセ。東京FMは雰囲気のよいソウルミュージックを流していた。

バタバタと階段を駆け下りる足音が近づいてきたのは、15時近く。

「山さん!雨っす。雨が降ってきました」

腕を組んで窓の外を見ていた山さんの後ろ姿は、真っ白い外からの光に、より輪郭を増していた。

「お前はどう思う」

ひとときの間の後、タケシは思い切って言った。

「梅雨入りです」

くるりと振り返った山さんは、にっと片口を上げ腕時計を見た。

「14時54分、梅雨入りだ!」

この一瞬の為に設置されたといっても言い過ぎではないこの部屋は、完全に一つとなった。

「14時54分、梅雨入り!」

きりりと復唱したタケシは、カモシカのように梅雨課を走り出ていて、扉にはもう残像しかない。

また、普段は急ぐ動作など一切見せない絵美も、パタパタと小走りに壁際の小さな扉を開けた。
中には赤いボタンが二つあり、一つのボタンには『梅雨入り』と書かれてあり、もう一つのボタンには『梅雨明け』と書かれてあり。

絵美はもう一度山さんを見返す。
にっと笑ってうなずく山さんを確認すると「えいっ」と『梅雨入りボタン』を押した。

日本地図の電光掲示板の関東地方が次々に赤く点灯し、『関東地方梅雨入り宣言発表』というドットの赤文字が右から左に繰り返し流れていった。

その後、パソコンに向かった絵美は、いつもの仕事ぶりがウソと思われるくらいのスピードで、まるでたくさんの泡が弾けるような音をたてながら、各方面へ詳細を打信しはじめた。


一方、タケシはというと、14階の天気予報課へ向かって階段を駆け上っていた。

電話で知らせてもよいのだが、発表を今か今かと待っている天気予報課への影響は大きく、そのため天気予報課だけには口頭で直接伝える、というのが代々の習わしとなっていたのだ。

階段をシュタシュタと二段飛ばしで駆け上がり、廊下を膨らんで曲がりながら、タケシは『走れメロス』を想う。

「きゃっ」
盆に2つのお茶を乗せたOLは、驚いて壁に身をかわす。

おれは、『走れタケシ!』だ。

バターンと勢いよく開けられた天気予報課のドアの前には、はぁはぁと息を切らしたタケシが腰に片手を当てて立っていた。

大勢の職員は、そのタケシの姿を見てすべてを悟った。
そして、そのまましぃんと言葉を待った。

そう、それは梅雨課のたった2つしかない仕事のうちの1つだとみんな知っていたからだ。

「どうも、はぁ。梅雨課の、はぁ。岡島です」

息を直してタケシは声を大にする。

「6月3日、14時54分。梅雨入り宣言、発表されました」

「ごくろうさまです!」

誰かがそう言うと、天気予報課はまるでアメリカ戦闘映画のファイナルシーンの様に『うわぁー』と盛り上がった。

「14時54分、梅雨入り!」
「14時54分、梅雨入り宣言発表です」
「了解!14時54分、梅雨入り」
「14時54分、梅雨入り確認しました」
「14時54分、梅雨入り確認!」

復唱が復唱を呼び、天気予報課は一瞬にして活性化され、それぞれが担当する各メディアに伝達を始めた。

タケシは自分の仕事が一区切り付いた安堵感に顔を緩め、「どうぞ」とOLから渡された、課長のデスクに運ばれるはずだったお茶を一息で飲んだ。

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次の日、東北地方でも梅雨入り宣言が発表された。

その夜、久しぶりに梅雨課の3人での打ち上げとなった。

『赤ちょうちん』は相変わらずサラリーマンの愚痴で活気づいていて。
タケシは早々に酔っていて。
映りの悪いテレビのニュースで『梅雨入り』について報じられる度に、タケシは「あの梅雨入り、実はおれ達が出したんすよぉ」と他のテーブル客に振れていた。

今年の梅雨の雨量予想や、タケシの冷夏説。
山さんの若い頃の失敗談に、絵美のコンパでの最悪話。
タケシの悪酔いに、今後の梅雨明け予想。

その絵は、本当に、ごくありふれた仲のよい職場の飲み会であった。

他愛もない話であっという間の『赤ちょうちん』を出た3人は、駅に向かった。
降り続く小雨は梅雨らしく、このままずっと止まないのではと思う程安定していて。


ガラゴロと山手線が通り過ぎてゆき

路肩には壊れて捨てられたビニール傘

テン、テン、テン、と水たまりを飛び越しては、クルクルと傘をまわす絵美

青信号とともにシャー、シャー、と長い尾を引いた車が行き交い

酔いも落ち着き、どこでうつったのか、調子っぱずれな『天城越え』を口ずさむタケシ

やっとライターを見つけて、青白い煙を一気に吐き出す山さん


1年のうちこの季節だけ集まる3人は、しっとり肌にまとわりつく雨の粉をも満喫しているようだった。

「やまさーん!明け宣(梅雨明け宣言)はおれに任せてください。おれ、自信がありまーす」

手を上げて銀座線の階段を降りようとする山さんに、タケシは叫んだ。
にっと片口を上げた山さんは、もう一度手を上げて段々と地下へ消えた。

またしてもデートの誘いを、言い終わる前にさらりとかわした絵美も、バックをクルクル回しながら中央線の階段をパタパタと上っていった。



雨の粉で柔らかくなったパチンコ屋のネオンの明かりが、後ろで行ったり来たりしている。

タケシは傘の先から滴る、なかなか切れない雫で、プラットホームにマルを描いている手を止め。

すうっと見上げた空に、雨のにおいを嗅いでみた。





『梅雨入り宣言』 おわり



                                 完全にフィクションです
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by KeN-ArItA | 2008-06-09 01:27

かたつむりランデヴー『梅雨入り宣言(前編)』

カーテンを開けなくても雨だとわかる。
車が行き交う音がシャーシャーと長く尾を引いているし、鳥の鳴き声もない。
聴覚をぬきにしてもなんと言うか、雨の雰囲気でわかるのだ。

開花の隙を狙っていた小さなつぼみをたくさん携えたあじさい達は、今頃歌いながら
ポコポコと花開いているかもしれない。


見上げれば、親ツバメ達が忙しく飛びまわり

湿ったブロック塀には、かたつむり

わだちには、一瞬で消える大小の波紋、踊る水たまり

大粒にまとめられた雨が滴る軒下では、雨宿り

降りてきた大気に包まれた大都市は、しっとり


春を引き下げた季節は、そろそろ梅雨を出そうとしているようだ。

窓の外、赤と緑の傘がすうっとすれ違った。



毎年この時期になると、気象庁12階にある小部屋を想像してしまう。
今から話す物語は、雨の季節の物語。

梅雨課の連中は今日もきっと、思い思いに空を見ているに違いない。

さあ、あなたも見上げてごらんなさい。雨のにおいがわかりますか?


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毎年4〜7月の4ヶ月間、梅雨入りと梅雨明けを見極めるためだけに、気象庁には『梅雨課』が設置された。

もともと地下2階の設備室の隣に設置されていたのだが、「窓一つない部屋で梅雨が予測できるかぁ!」とブチ切れた山さんの迫力に負けた総務が、数年前に12階の旧印刷室へ移動させたのだ。

そんな日本の梅雨入りと梅雨明けの『見極め』を背負った梅雨課は、3人で構成されていた。


「やまさーん!
降ってきました。いい雨です。発表しましょう。梅雨入りです」

屋上からバタバタと駆け下りてきたタケシは、まるで自分が降らせたと言わんばかりに得意顔で、
はぁはぁと息を切らしていた。

42歳とは思えぬ若さと貫禄の山さんは、窓際で競馬新聞を片手に大きく足を組んで、顔の向き一つかえない。

「わからんか。
これは梅雨じゃない。ただの雨だ」

「何言ってるんですか。衛星写真と気圧配置図を見てくださいよ。
それに過去のデータから割り出すと、この雨は絶対梅雨です。
大勢の人たちの週末の予定がかかってるんですよ。早く発表しましょう」

入社3年目のタケシはまだ仕事を任せてもらえず、その苛立ちから山さんにはよく食ってかかった。

競馬新聞をデスクに置いた山さんは、回転椅子をキィと鳴らし、もう一度窓の外を見た。

「…においが違う」

そう言うとタバコを持って出て行ってしまった。

「くそ〜、あのおやじ」

山さんの低い声の響きには妙に説得力があって、論議を交わす時、タケシはよく上ずってしまう。

確かに、総務に掛け合って扇風機からエアコンに変えさせたのも、自分の椅子を肘あて付きの高めのヤツに変えさせたのも、絵美のパソコンを新しく変えさせたのも、山さんの手腕だった。


「山さんね、においで雨の種類がわかるんだって」

パソコンでトランプ占いをやっていた絵美が笑った。

絵美はタケシよりも2年先輩で、梅雨課の4ヶ月以外は、ウィンドプロファイラという上空の風向風速を測定する部署に所属していて、風読みには長けていた。
そこでは、大気中に大きな風の乱れなどが生じた時に『管制塔や航空機に警報アナウンスを流すボタンを押す』という仕事をしていた。

梅雨課では、各地方気象台とのデータのやり取りや、梅雨入り、梅雨明け、が決定した時に
『各メディア等に一斉に伝令を流すボタンを押す』というのを主な仕事としていた。

暇を持て余した絵美は、主にネット占いや、旅行情報、コンサートのチケット予約、
各地方気象台女性社員との『チャット広場』での活動に忙しくしていた。

「におい?
馬鹿げている。それじゃまるで『天気予感』じゃないですか。
おれらの仕事は、そんな甘っちょろいもんじゃないでしょう!」

「まーまー。
でも山さん、12年前からほとんど梅雨入り外したことないらしいわよ。
競馬はぜんぜん当たらないけどね」

「梅雨入りと競馬を一緒にしないでください!」

梅雨課にはたった一つだが、正方形の大きな窓があった。
窓はどっしりと絵の様に静かで、だけど、しっかりと降り始めた雨の街を映していた。


衛星写真は、東シナから三日月状に、ちぎれちぎれに尾を引いて伸びる雨雲の帯を映していて、
それを挟む大小の高気圧の動きを読むのは、確かに難しい状況だった。


タケシは夕方、福岡地方気象台からの『九州地方梅雨入り宣言発令許可要請』を許可した山さんに、もう一度関東地方の梅雨入りを促したが、徒労に終わった。

「外で頭を冷やして出直して来い」

その言葉に頭に来たタケシは、飛び出してしまったのだ。


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その夜、不満が冷め止まないタケシは、絵美を誘って神田の『赤ちょうちん』で飲んでいた。

ネオン街を映す水たまりは、未だ落ちてくる雨に揺れていて。
『赤ちょうちん』は、早い時間にも関わらずサラリーマンの飛び交う愚痴で活気づいていた。

「ったく、ざけんじゃないっつーの。
おれは、過去のデータと気圧配置図をもとに予測してっから間違いないっつーの。
なーにが、雨のにおいだ。そんなのないっつーの。
明日、おれがガツンと言ってやりますよ」

早々に悪酔いしたタケシは、くだを巻いている。

「だいたいあの人、昼間いない時どこで何してるんですか?
絶対、ウインズ(場外馬券所)ですよ。いや、もしかしたら府中(競馬場)までいってるかもしれない。

それに、去年、あんなにハマってたプラモデルはどうしたんですか?
まったく飽きっぽいんだから。
まー、プラモのシンナー臭いよりは、競馬の方がましか…」

「やまさん、あんたのこと嫌いじゃないと思うよ」

「おれは嫌いです。しかし…
はぁぁ、なんでおれ、梅雨課なんかに配属されたんだろう。

せっかく気象予報士取ったのに。
テレビとかの前で、『明日は晴れ!自信度満点です!』とかやりたかったのに」

「火山噴火予測課よりはマシでしょ。さあ、もう帰りましょ」

「あの、絵美さん…
梅雨入り終わったら、あの、僕と…遊園地とか」

「たいへ〜ん!もう11時。さあ帰りましょ」

タケシの言葉をするりとかわした絵美は、伝票を持った。

時々頭の上に小悪魔のような黒い耳が見える時もあるが、それもしっとりと長いまつげとともに
『魅力』として、憎めないのが不思議だった。
タケシの気持ちを知ってはいるのだが、付かず離さず、言わせないのもまた絵美らしい。


スーツ姿で溢れかえり、愚痴のピークを迎えている『赤ちょうちん』を出たタケシは、思わず立ちつくした。

水たまりは鏡のように静かで、あやめ色に光る『終着駅』というスナックの看板を映し出し。
突如暗がりへ駆け出し、空を凝視するタケシ。

雨はとっくに上がっていて、ビルに切り取られた狭い空の向こうは都会の光が入り乱れ、さらにその向こうに、かすかに瞬く星まで見つけたのだ。

「梅雨じゃない。ただの雨だ」

山さんの放ったあの言葉が、ずしんとのしかかり。酔いは足裏から一気に地面へと抜け落ち、タケシは崩れるように膝をついた。

『終着駅』から漏れてくる調子っぱずれの『天城越え』は、狭い路地で行き場をなくし、やっぱり空へと向かっている。

「雨のにおいねぇ。
フフフ、私にはわからないなあ」

肩にトントンと手を乗せた絵美は、まるでこうなることがわかっていたかのように、
ほころんだ顔で空を見上げていた。





<後編へ続く>     6/9(月)続編更新予定


                                完全にフィクションです
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by KeN-ArItA | 2008-06-02 22:28


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