勢いよく去ってゆくバスにもう一度ぺこりとお辞儀をした。
そして、用水路のあぜ道を家に向かって歩き始めた。
嫌いだったバスも好きになれるような気がした。
〜角を曲がってバスが来る(エピソード3)〜
『臨時停車、僕んち前』
歯並びが悪かった僕は、都心の大学病院へ通っていた。
その日は学校を午前で早退し、一人でバスに乗って1時間近くもかかる病院まで行った帰りだった。
小学4年だった僕は歯の病院ごときで早退できたことが嬉しく、特別な午後の感覚を楽しんでいた。
福岡の都心バス停には、いろんな行き先のバスが次々とやって来た。
眼をぱちくりしてキョロキョロしていないと、自分の乗るバスを見逃しそうで落ち着かない。
36番、36番はまだかな。
角を曲がってバスが来た。
人達の隙間から顔を出し、眼を凝らしてバスの番号を確認した。
1時間に1本だったバスは僕を乗せ、田舎へ向かって走り始めた。
『はじめてのおつかい』、まるでそんな感覚。
一人で都心まで行くようなことは初めてで、無事任務を達成して少し大きくなった気がした僕はバスの一番前に座っていた。
一番前に座るのは、バスが大好きだからというわけではなかった。
酔うからだ。
横の景色を見ているよりは前を見ていた方が景色の動きが遅く、酔いにくいのだ(そう言われていたし、そう信じていた)。
一番前の座席でしがみつくように前方の景色を見ている少年の姿を微笑ましく想像されるかもしれないが、当人はいたって真剣だった。
握りしめた整理券はくにゃくにゃになり、やがて無意識のうちに折り紙のように飛行機などに折られ、はたと気づき、再び平らに戻された。
「どこまでいくの?」
突然、運転手がマイクで話しかけてきた。
振り返ると車内に人影はなく、乗客は僕だけになっていた。
「一番田です」
運転手はマイクを外して、すぐ側にいる僕に向かっていろいろと話しかけてきた。
「一人で九大病院まで?すごいなぁ〜」
そんな風、感じのよい運転手だった。
田舎町のバス停をどんどん通過しながら走る僕と運転手だけのバスは、気持よかった。
少年ながら、この状況を『お得だ』と思った。
「一番田から家は遠いのか?」
「城山と一番田の間くらいです」
やがて、葉をびっしりとつけた大きなイチョウが立つ道端にバスは止まった。
そこは学校の帰り道、いつも近道として通るあぜ道の入り口で、バス停からは程遠い場所だった。
「ここらへんか?」
「あ、はい」
運賃を払い、お礼を言って、たたっとステップを降りた。
勢いよく去ってゆくバスにもう一度ぺこりとお辞儀をした。
そして、用水路のあぜ道を家に向かって歩き始めた。
拾った小枝でピシピシと草花を叩きながら、『ぼくんち前』と言ってみた。
嫌いだったバスも好きになれるような気がした。
【夏の花】
これだけの強い日射しと気温の中、よく生きてられるよね。
思い浮かべてみても、夏の花はあまり飾らない。
シンプルよね。
【雨後のタケノコ】
ある日、背伸びをしてカメラを近づけると「あっ」。
ふぁって飛んでいってしまった。
あっと言う間に大きくなるよね。
今ではもう空き巣。
1階の短期入居さんはもう出てゆかれました。
また帰ってきーね。
【海へ行こう】
時には、栃木、埼玉、東京、静岡との長距離を繋ぐこの『湘南新宿ライン』。
響きがいいよね。
みなさん、今年は海へ行きますか?
海行きの列車は他にもたくさんあるよ。