初めての持ち主はとてもよい扱いをしてくれる人だった。
雨に濡れた後はちゃんと干してくれたし、きれいに畳んでくれた。
だけど店先で間違えたフリをして勝手に持ち出した次の人の扱いはひどかった。
特に、コツコツと杖のように先を突いて歩く癖。
芯に響いて堪えた。
やがて電車の中で置き忘れられた私は、そういった多くの引き取り手のない傘達と共にコンテナに乗せられ、遠い国へ送り出されることになった。
船の底は深い飴色のよう。
静かで時折きしむ音がしっとりと響いていた。
私たちはそれぞれの生い立ちを語り合ったり、深く眠ったりした。
雨の多い南の国へ着いた私は、それからたくさんの人達を雨に濡らさずに過ごしてきた。
時には、一緒に歌を歌いながら小雨の中をクルクルと走り回ったり。
時には、大きな木の下で子供達が揺らして落とす木の実を受け止めたり。
時には、八つ当たりされたり。
やがて大きな風を受けて半分がつぶれてしまった私は、捨てられ、飛ばされてこの集積場の角にやってきた。
開いたままの私が影を作るので、小さな草達は文句を言った。
何もない、尽きることのない砂時計のような時間が続いた。
自分が何ものなのかすら分からなくなり、穏やかでそれはある意味幸せだった。
やがて、しおれるように朽ちてなくなってゆくのだろう。
ある雨の日、濡れた猫の親子が雨を凌ぐためにやってきた。
母猫は子どもの毛繕いをし、子猫は安心して眠りについた。
私はぼろぼろの身体をめいっぱい広げて、猫の親子が雨に濡れないようにした。
ぷつぷつ、ぷつぷつと雨が鳴り続けていた。
濡れない場所に居れば、それは安らぎの音。
私は傘、やっぱりこの時が一番幸せなのだ。
【静かなポップ】
暖色系のあじさいって珍しいよね。
今日の関東は梅雨の切れ間、早くも30度越え。
季節はとっとと進むよね。
さあ、僕らも行こう!
おっとその前に振り返って忘れ物チェック。
傘忘れんごとね!