旧ありけん日記 |
いつだったろう、あるカフェの窓際。
去年の大震災で曲がってしまった東京タワーの先端を見つめながら、その修繕工事の方法を自分なりに考えたことがあった(ひまじん)。 そこから妄想が始まったのだ。 問題は高さ333メートルという点。 風も強けりゃ、クレーンも届かない。 作業中に地震が起こる可能性だってある。 いくら日本のシンボルとはいえ、管理を委託されている民間会社がポンと出せるほど修繕工事の予算捻出は安易ではない。 そこで考え出されたのが『ヘリコプター大作戦』だった。 2機のヘリコプターとタワー先端をワイヤーでつなぎ、引っ張って直すといういたってシンプルな作戦である。 これなら足場工事に対して恐ろしく予算を削減できる。 余った予算は、スカイツリーに対抗すべき新グッズの開発費に回してもよいのだ。 絶対条件として、ヘリのパイロットが超一流でなければならない。 そう、プロジェクトの最大の要は人選である。 そしてあまたの優秀パイロットの中から選ばれたのが「たけし」と「由美」であった。 その世界では知らない者はいないほど、彼らのヘリオペは天才的だった。 これならば間違いない!誰もがそう思うだろうがここにも隠された密かな問題があった。 二人は以前、恋人同士だったのだ。 しかも、たけしにいたっては未だ由美のことが好きときている。 しかしここは国家のシンボルに関わる大プロジェクト、私情を挟んでいる場合ではない。 たけしも由美も一流のプロとして私情を捨て、この仕事を引き受けた。 上空333メートル、南西の風0.5、晴天。 日程は、気象庁との刻々たる打ち合わせのもとに決められただけに好天と言える。 タワー先端部と2機のヘリを繋ぐワイヤー取り付け作業が成功した。 いよいよ先端を引っ張って元に戻すのだ。 「管制塔より2機へ。微速前進」 「微速前進」 タワー内に設置された簡易管制塔からの指示が、たけしと由美ののヘッドホンを鳴らす。 「ダメです、微速ではぴくりともしません」 「管制塔より2機へ。中速から全速で調整してみろ」 近づきすぎてもヘリがぶつかってしまう。 高低差を間違ってもワイヤーが絡まってしまう。 まさに神業。 彼らが超一流のパイロットというだけではない、息も合っているのだ。 しかし、タワーの先端はいぜん曲がったまま。 「無理です、引っ張りきれません。 やはり空中では力が入りません」 管制塔から帰還命令が発せられた。 「たけし、助走をつけてやってみましょう」 「なんだって!そんな無茶な」 「嫌なら私一人でやるわ」 「まったく、変わらないな、、」 2機の機体が傾き、一気に加速した。 まるで鏡にでも映すかのように同じ動きをしている。 ワイヤーがビンと音を立てて振動した。 「どうだ!やったか!?」 「管制塔よりオペレエーター。管制塔よりオペレーター。 あのね、、うんと曲がっちゃった、、」 「ほらみろ言ったじゃないか~、どうすんだよ由美」 「ふん、相変わらずな言い草ね。 だからいつまでたっても一人なのよ。 今度は反対側へ回って引っ張り直すのよ」 「さあ行くわよ!GO!!」 「管制塔よりオペレエーター。管制塔よりオペレーター。 あのね、、今度は反対側に曲がっちゃった、、」 開始から3時間が経とうとしていた。 並ならぬ集中力をもっての作業である、二人も限界を感じ始めていた。 「こちら管制塔。こちら管制塔。 いいかお前達、次が最後のチャンスだ。 なぜだかわかるか? お前らがあんまりグニャグニャやりすぎたんで、ここらでポキっと折れそうなんだ。 世界中が注目する中でそれは、、まずい。 もし、次失敗したらこのプロジェクトは終了する」 「わたし、、自身ない」 「なに言ってるんだ由美、俺たちならできる。 いつだったか、ゲーセンのUFOキャッチャーで絶対無理と言われていた特大のドラえもんとった時のことを思い出せ!」 「とったけど、あれニセモノのどらちゃんだったじゃない。 それに、これはUFOキャチャーじゃない!」 「同じさ、いくぞ」 先ほどから大気の流れが変わりつつあることは二人とも気づいていた。 しかし、こういったタイミングで風の波が来ようとは。 「あぶない!!」 「高度と水平を保つんだ」 「管制塔よりオペレーターへ。 プロジェクトは失敗。直ちに帰還せよ。直ちに帰還せよ」 「ここまで来て、そんなことができますか」 「由美、、こんなときになんなんだが、、 これが成功したら俺たち、やり直さないか」 「ばっ、なに言ってんのこんなときに! それにみんなに聞こえてるのよ! 集中して、さあラストチャンス、行くわよ」 「かまうもんか!おれはお前が好きだぁー」 まだ日が高い午後、高層ビルのカフェ。 窓際の一席からは、海原のようにきらめく都心が一望できる。 なのにたけしは時計ばかり気にしている。 そう、由美と待ち合わせをしているのだ。 再びやり直してくれるのならこの時間に来てくれと伝えてある。 果たして由美は現れるのだろうか。 あの調子じゃ来ないかもしれない。 いや、もしかしたらヘリで現れるかもしれない。 たけしは再び一枚の絵のような窓に目をやった。 そこには、先端がしゃんと垂直に伸びた往年の東京タワーが陽を浴びていた。 時は今、桜の頃、赤羽橋付近。 ありけんは朝陽の反射する坂道を登りながら、その美しさに幸せを感じていた。 東京タワーをバックに桜を撮ろうとカメラを向けた。 あ、、 最先端部に足場や工事用のネットが設置され始めているのに気づいたのだ。 いよいよ工事が始まるのか。 やっぱりヘリコプター大作戦は不採用に終わったか。 でも、またまっすぐ元どうりに戻るんだね。 これからもシンボル。 日本の空に、未来に、ピンと伸びててくれ。 さあ、春進む、工事進む、僕らも進む!! 新しい季節が始まろうとしている。 モズやスズメが蜜を得ようと桜の花を切るので、回りながら花びらが落ちてくる。 簡易だけど、すてきな花見だ。
by KeN-ArItA
| 2012-04-10 19:32
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