ダムダムと短鈍に響くドリブル。
キュッ、キュっとターンする度に鳴くバスケットシューズ。
緊張のコート内を歯切れよく行き交うかけ声。
ファと踊ったゴールネット。
「ナイッシュー!!」
まだ試合には出れない高校一年生、新入部員達はベンチサイドからめいっぱい喝采した。
そのころ、ありけんと言えばベンチサイドではなく外の水場でポカリスエットを調合していた。
未経験で入部したありけんは、1番下っ端だったのだ。
調合は、ポカリスエットの源粉と水を混ぜるだけである。
しかし、この仕事を軽くみてはいけない。
1Lサイズのポカリ粉で1Lのポカリを作ると、甘過ぎると先輩からクレームが出るのだ。
それに、スピードも求められる(徒歩厳禁)。
また、しっかりシェイクしないと下に粉が溜まっていたりするし、冬と夏でブレンド率が変わったりと、突き詰めるとソムリエクラスなのだ。
そしてついに極めぬいたありけん黄金率『ポカリ粉7割8分に水1L(冬は8割2分)』。
封を切ったばかりだと簡単だが、残った半端を足しながらこのブレンド率を維持し続けるのは、もはやバリスタクラスである。
ああ、おれも試合観てー、、。
なんて、そんな雑念は許されない。
やがて上級生になり、ポカリの黄金率も後輩(ど新人)に引き継いだありけんは、ようやくベンチに入れるようになった。
ベンチと言ってもレギュラーではないありけんは、応援ばかりしていた(応援はプロ)。
時には試合に出してもらった。
シュートも決めた。
仲間達ともうちとけた。
有田のラーメン情報は間違いない!と言われるようになった。
スポーツ少年時代を思い返してみる。
久しぶりに帰った実家で、古い押し入れを開けたような感じ。
なかなか思い出せないのだけど、それでも場面場面が断片。
ほこりをかぶった小箱を一つ一つそっと取り出してゆくよう。
いずれめいっぱい走り回っていた。
その中で、ポカリを調合する自分が不思議と一番鮮明に浮かんでくる。
水場からダッシュで持ち込まれた出来たてポカリ。
タイムアウト中の選手達はむさぼるように水分補給する。
作戦とわずかな休息を終えた選手達はコートに駆け出してゆく。
いつだったか、ある先輩が独り言のようにつぶやいた。
このポカリ飲みやすいな。
嬉しかった。
浮かんでくる水場は光溜まりの中。
2013年1月 ありけん日記より
最近、スーパーで粉ポカリ(これはアクエリアスだけど)を発見して、ジョギング終了後用のスポーツドリンクとして使っている。
懐かしい。
ブレンド黄金比の感覚はまだ戻ってないけど、いろいろ思い出して今回のエッセイをカムバック。
自分はあの頃と変わらずポカリを作り続けているのかもしれない。
取り巻く全てに感謝である。
ありがとう。