放課後の昇降口。
雨の間をくぐり抜けてくるチャイムの音は、あまり響かない。
「この傘使っていいよ」
そう言って傘を貸してくれたのは、同じクラスの中川だった。
紺色の制服の彼女は、傘を渡すと雨の校庭へ消えていった。
あいつ、なんで傘二本持ってんだろ…
その時はそればかり考えていた。
砕けた雨の粉がさらさらと舞い上がり茶色のタイルに積もって、彼女の小さな足跡は外へと続いて。
蛍光灯のような空と、雨のにおい。
次の日、傘を返した僕に「どういたしまして!」
彼女はいつもと変わらず元気。
僕の方はいつもと違って。
彼女のことが少し好きになっていた。
時は今。
西武線の改札を出て、券売機のあるスペース。
雨はいっそう強くなって、飛び出す気もいっそう失せてきた。
しっとり濡れた町と、雨のにおい。
そういえば高校の時、誰か傘を貸してくれたな。
…中川だ。
夕暮れの改札。
雨の間をくぐり抜けてくる踏み切りの音は、あまり響かない。
【去りぎわの夕立】
しかし見事な雨やった。
小降りの街角、傘をさしてシャッターさ。