夕日を浴びている彼岸花の前。
スンスンとにおいを嗅いでいる犬は、早く帰りたい飼い主に川沿いを引っ張られていった。
黒目川のベンチは相変わらず茂った藤棚の下で。
持ち出した仕事を終えた僕は、コンビニのカフェラテをもう飲み干してしまった。
「…てい、てい」
なかなかしとまらない蚊をやっとやつけて、
携帯のメールを見て懐かしくなっているのは、
最近いそがしくて余裕のない僕です。
【黒目川河川敷にて】
昨日、ずっと連絡の途絶えていた岩手の音楽仲間からメールがきた。
「アルバムの発売おめでとう」というお祝いの言葉と、購入方法を聞く内容のメールだった。
学生時代、雪の舞う一月の盛岡駅。
地下道で、路上ライブをやっていた彼に声をかけたのが出会いだった。
その後お互いバンドを組んで、見合い、飲んで、よく語った。
やがて自分はその町を後にしたんだけど。
今から6年程前に久しぶりに盛岡でライブをやった。
だけどそのステージは表現という域にも達してなく、結果ダメダメだった。
久しぶりの仲間達の前、さほど成長していない自分しか見せれなくて、悔しくて。
打ち上げで、彼に思いとは全然違う態度で接してしまったんだ。
「東京は戦場」
ただただそう自分に言い聞かせて走り回ってた僕は、素直な気持ちもねじ伏せていたんだね。
だけどあれからずっと、その日のことを気にかけていたんだ。
それから連絡は途絶え、ずいぶんと久しぶりの彼からのメールを見ているわけだけど。
「おめでとう」だって。
ありがとう。
マイナス10度を下回る盛岡の冬の夜。
よく路上ライブなんてやったよね。
差し入れのホットコーヒーは一瞬で冷め、しまいにはワンカップを買ってたっけ。
元気そうで何より。
【黒目川河川敷にて。ホームランボール。】
盛岡市内から見えるみごとな山は、岩手山。
その向こうに八幡平という広大な山岳地帯が続いている。
学生の頃にアルバイトで、八幡平のあるホテルに行った。
その屋上に出た時に、目下から目上、その彼方まで広がる紅葉を前に涙が出てしまったんだ。
大地が冬の厳しさを知っていて。
やがてやって来るそんな冬を前に、葉っぱ達は「私は生きた」とハラハラと散り。
その落ち着いた静けさは壮大で、それはきっと東北の秋そのものだと思った。
「…てい、てい」
再びやってきた新手の蚊をやつけて、
腰を上げて忘れ物がないかを確認しているのは、
すっかり秋モードになっている僕です。
オレンジを増した夕焼けの中、赤とんぼはフワフワと浮遊するゴミのよう。
目を閉じれば今も、君と涙があふれそうなほどの岩手の秋が浮んできます。
【西武線沿いの帰り道と晩夏の花】
【河川敷のまだ若い数珠の実。】
子供の頃、実家のお手玉の中身はこれでした。
たくさん摘んで、じゃらじゃらじゃらじゃら、おばあちゃんのもとへ。
【駅からの帰り道、Bコースの猫】
人なつっこいけど、なかなか出会わないんだ。
【レコーディング、終了!】
この夏は、制作の夏でした。
今時期から来年の春にかけて、またライブも増えてゆくのです。
う〜、頑張るぞ!