人気ブログランキング | 話題のタグを見る

旧ありけん日記


2005年〜2022年5月まで、有田健太郎の日記、エッセイ、フォトギャラリーです
by KeN-ArItA

アイスな夜、時空を越える

夜も深まる寒い帰り道、なぜだか急に『雪見だいふく』が食べたくなった。
きっと10年以上は食べてもいない雪見だいふく。
誰かが食べてたり、ひょんにそんなポスターを見たわけでもないのに、なんで雪見だいふくなんだ。

『雪見だいふく』は、ロッテが発売したアイスクリームで、バニラアイスがだいふく風にお餅みたいなものでくるまれているという、自分が子どもの頃からずっとあるロングセラー商品である。
小学校の給食のデザートとして出されたこともあって(2個あるうちの1つ)、それを食べた時は、ほっぺが落ちるほど感動して。
休みの人の分を争奪するじゃんけん大会も、どんなデザートの時よりも白熱を極めた(いつの時代だ)。

しかし、まだ売ってるのかな?
ずいぶん見てないな。

粉がかかった真っ白いお餅にくるまれていて、はむっと食べると、ふっくらなバニラアイスが口の中でどんどん溶けてゆき。
そんな絶妙な食感と冷たさを思い出し想像していると、僕の頭はもう雪見だいふくだらけになってしまった。

ミミガーが食べたい!なんてことはよくあるのだけど、甘いものをあまり好まない自分としては珍しい現象だ。

だい、ふく、だい、ふく、ゆっきみだいふく〜
だい、ふく、だい、ふく、ふくふくゆきみぃ〜
ふく、ふく、ふく、ふく、ゆっきみだいふく〜

早足なテンポに勝手な雪見ソングまで口ずさみながらコンビニに入った。

僕は、雪見だいふくがなくってもがっかりしないように、あまり期待を持たずにアイスコーナーへ向かった。
しかし、実際はドキドキしていた。

曇りがちなガラスケースの中には、冷たさを好む渡り鳥のように、様々なアイス達がひしめき合って楽しそう。

おおー、アイスだ。

そんな中、雪見だいふくはすぐに見つかった。
だけどなんだか様子が違っていた。

それはパッケージ。あの懐かしい白と赤ではなく、きな粉色をしているのだ。

『きな粉黒みつ』

僕は2つの驚きを同時に受け止めなければならなかった。

まず一つは、雪見だいふくがまだ存在していた。
しかも姉妹品(きな粉黒みつ味)まで出ているとゆう根強い人気だったとゆう、喜び大の感動。

もう一つは、ここには姉妹品の『きな粉くろ蜜』味しか置いてなくて、オリジナルの雪見だいふくは無い。というがっかり大の現実。

この相反する二つの感情は、水槽の中の水を強くかき混ぜたように混ざりあって、頭の中でたくさんの濁りを生じさせた。
『喜び大の感動』と『がっかり大の現実』。
混ざり合った後に、果たしてどのような感情が残るというのだろうか。
やがてだんだんと濁りがとれてきて、大きな文字が浮かんできた。

がっかり。

そんなのがっかりである。
おいおい、オリジナル置いとけよ。

きな粉くろ密のパッケージはきな粉色で、薄餅とアイスに包まれただいふくの断面図の中心からは、黒蜜がとろーり溢れ出ている絵が描かれていた。

いらない!そんなのいらない。

いまいち自信がなく不合格とわかっていても、いざその『不合格』という文字を突きつけられるとやっぱりショックなものである。

例えば、あなたがふとした瞬間突然、シルべスタスタローン主演の名画『ロッキー』がどうしても見たくなったとしよう。
5つもの生卵を一息で飲み干す場面、あのテーマソング、光る汗のトレーニングシーン、「エイドリアーン!」と抱き合うラストシーン。
思い起こせば思い起こす程、あなたの頭はもうロッキーでいっぱい。
帰宅の道を遠回りして、レンタルビデオ屋に入って、ついにロッキーを見つけました。

やったぁ!

しかし、よく見るとそれは貸し出し中だったのです。

…はぁぁ〜

ふと隣に、シルベスタスタローン主演の名画『ランボー〜怒りのアフガン〜』を発見するあなた。

ねえ、借りますか?あなた、借りますか?

いいえ、借りません!
そんなショックを包み込んでくれるような出会いを求めて、他のビデオを探し始めるでしょう。

この時の僕もそうだった。
期待しないようにと向かったはずだったのに、行き場を失った僕の盛り上がりは、成仏できない幽霊のように薄白い冷気が立ちこめるアイスコーナーをさまよい始めた。


ちゃらちゃらした幾種のひしめくアイス達をスルーして、僕の目がヒタと止まった。
それはピノでもハーゲンダッツでもなく、『ビエネッタ』だった。

おおー、こ、これは、、こんなのまだあったのか。


ビエネッタは自分が幼少の頃に発売され、『アイスとケーキの融合』たしかそのような内容の売り文句だったと思う。
当時のCMでも精力的に売り出されていたこのアイスは、チョコとアイスが幾層にも重なり合って、スプーンでパリリとケーキみたいに食べるという上品なものだ。

アイスとケーキ。
こんな夢のような2つの単語が1つになったのである。
とんでもないものが出てしまった。。
CMを見た少年ありけんは、椅子の上で固まってしまった。

アイスとケーキ。
ビエネッタは、この夢のような単語を組み合わせることに成功した数少ない一品ではないだろうか。

超ビックなミュージシャンがユニットを組んでも、その曲が意外と大したことないように。

ドッチボールとバスケットボールというポピュラーで最高に楽しい二つのスポーツを合体させても、ポートボールという意外と地味なスポーツになるように。

誰もが欠かさないシャンプー。誰もが欠かさないリンス。
合体させたら『リンプー』、『チャン・リン・シャン』などどうしようないものになってしまうように。

最高なもの同志の融合は、なかなか難しいものである。

しかし、ビエネッタはこれをやってしまったのだ。

昭和の少年ありけんが、さっそくチャリで風になったのは言うまでもない。

しかし、外国人がCMに出る様なビエネッタは値段も高かった。
『ホームランバー』や『タマゴ』、『ガリガリ君』、奮発して『宝石箱』(そんなのがあった)がせいぜい手に届くという時代に(いつの時代だ)、袋ではなく箱に入ったそれは威厳高く見え、自分のお小遣いではとても手の届くものではなかったし、親に買ってくれと簡単にせがめるものでもなかった(だからいつの時代だ)。

あれからどれだけの月日が流れたというのだろう。


コンビニ袋をぶら下げた僕は、再び冬至間近の夜道を歩いていた。

気づけば師走も残りわずか。
そういえば今年のクリスマスは、なんだか騒がしくないな。
そういえば今年の冬は、なんだかあまり寒くないな。

きっと今からやね。

帰ってやらねばならないことの膨大さも、今は考えずに夜風に吹かせて。

姿の見あたらない月が放つ、薄光りのオブラート越しの冬空の下。

パリリ、あの感動をもう一度。
僕の頭の中は、もうビエネッタでいっぱい。


通り過ぎるバーからは、往年のクリスマスソングが漏れていた。


しかしこの2日後、ありけんは小分けして食べていたビエネッタを冷凍庫でなく冷蔵庫に入れてしまい。体積を2分の1に減らしてしまうのである。



アイスな夜、時空を越える_e0071652_142295.jpg
【マイナスにはプラスがくっついている】

身を切るような風と、出力大の寒さの中。

いったいこんな中で頑張って何になるというのだろう。
誰が見てくれてるのだろう。
無駄な努力なのではないだろうか。
もう室内に戻ろうよ。

ふと見渡せば、夜空はダイヤモンド。
窓の内側からでは、テレビ越しでは、涙なしでは、見れない景色がある。

世界は、意外とうまくできているかもしれない。

さあ、踏ん張って。
この時代をみんなで進もう!
by KeN-ArItA | 2008-12-21 00:15
<< チョークの粉 黄色い絨毯の上を通り過ぎる >>


twitter
以前の記事
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 09月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 04月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
2006年 12月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
2006年 08月
2006年 07月
2006年 06月
2006年 05月
2006年 04月
2006年 03月
2006年 02月
2006年 01月
2005年 12月
2005年 11月
2005年 10月
2005年 09月
記事ランキング
画像一覧